2006/04/15, 日本経済新聞 名古屋夕刊 (社会面), 36ページ

ホームレスの自立支援を目指して創刊された雑誌「ビッグイシュー」の販売が十五日、名古屋市内で始まった。ビッグイシューは、販売員となったホームレスが雑誌の売り上げの一部を収入として受け取り「路上生活脱出」を目指す仕組みで、日本では十都市目の試み。名古屋市は国内で三番目にホームレスが多いとされ、支援者らは「販売活動を何とか街に根付かせたい」と意気込んでいる。
 この日は計三人が午前八時ごろから、市内三カ所で販売を始めた。あいにくの雨となったが、名古屋駅前を担当した阪口仁範さん(57)は支援者らとともにビッグイシューを掲げて通行人に呼びかけた。阪口さんは「売れ行きは好調。アルミ缶を集めて暮らす毎日から自立した生活へ第一歩を踏み出せた」と、手応えを感じた様子だ。
 ビッグイシューは、ホームレスしか販売できない雑誌として一九九一年に英ロンドンで創刊、日本版は二〇〇三年から売り出された。国内外の芸能人などを特集したインタビュー記事が好評で、東京や大阪など全国で計約百三十万冊の売り上げ実績がある。価格は二百円で、うち百十円が販売員の収入となる。
 名古屋市によると、市内のホームレス人数は大阪市、東京都二十三区に次ぐ。市は一時宿泊施設(シェルター)を整備する一方、愛知万博愛・地球博)の開催を控えた昨年一月には白川公園(中区)のテントを強制撤去。「強引すぎる」との批判もあった。
 名古屋での販売を支える有限会社「ビッグイシュー日本」(大阪市)の佐野章二代表(62)は「名古屋での販売は遅すぎたぐらい。一からのスタート」と意気込む。今月三日には地元支援組織として「ビッグイシュー名古屋ネット」が設立された。
 心配なのは、ビッグイシューの販売が名古屋で根付くかどうか。受け入れ方は都市によって大きく異なる。「頑張りや」と気軽に買ってくれる大阪と違い、東京では苦戦が続く。佐野さんは「人口の多い東京では、ホームレスが比較的身近な存在ではないことが原因では」と分析する。「名古屋で根付くかどうか、全く分からない」
 ビッグイシューの存在を知らないホームレスも多いが、佐野さんは「今後、販売員の数を増やしていきたい」と力を込める。「『ホームレス支援』などと重たい感覚を持たずに、気軽に声を掛けて」と呼びかけている。<<